お灸のしくみ、やさしく

お灸のあたたかさは、
体の中で「信号のリレー」になっている。

熱をのせるだけ、ではありません。皮膚で熱が信号に変わり、体の中を走ります。図で見てみましょう。

皮膚、脊髄、脳、からだの4か所を信号がつなぐ図 皮膚 脊髄 脳 からだ ① 熱が信号に ③ 乗り換え ③ 感じる ④ 返事が届く ② 近所で完結も
模式図です。実測データを描いた図ではありません。

先に結論

3行でいうと

熱は、皮膚で
「信号」に変わる

信号は、近く・脊髄・脳へ
道が分かれて届く

道ごとに、研究の
進み具合はちがう

教育を目的とした内容で、医療上の助言ではありません。

まずは基本

お灸って、なに?

もぐさ(よもぎの葉の綿毛)に火をつけて、体の「ツボ」をあたためる、古くからの方法です。やり方は4種類に分けて見られます。

直接

皮膚の上で燃やす

間接

間に台座やものを挟む

鍼と一緒

鍼の頭であたためる

機械

燃やさない「灸」もある

このページは、もぐさを燃やすお灸の話が中心です。

しくみ

熱がたどる、4つの場面

上から順に、皮膚から体の中へ。

場面 1|皮膚

熱が、信号に変わる

表皮真皮皮下 信号!もぐさ温度センサー

皮膚の下には、温度を感じる小さなセンサーが並んでいます。熱が届くと反応して、神経に電気の信号が走ります。

たとえるなら玄関のセンサーライト。近づくと、家じゅうに合図が走ります。

さわって確かめる

温度を動かすと、反応しはじめるものが点灯します。

36℃
  • あたたかさのセンサー(TRPV4)27℃〜
  • ぬくもりのセンサー(TRPV3)32℃〜
  • おだやかな熱の線維(C線維)約40℃〜
  • 「熱い」のセンサー(TRPV1)43℃〜
  • 強い熱の線維(Aδ線維)約47℃〜
  • 強い熱のセンサー(TRPV2)52℃〜

研究で報告された目安です。人や測り方で変わります。

もう少し詳しく

熱のほかに、輻射(遠赤外線のような熱)と煙も皮膚に届きます。煙の働きは、まだ仮説の段階です。

場面 2|すぐ近く

近所で完結する反応

脊髄・脳へ血管広がる 1 2 3 4
  1. 熱を感じて、信号が神経を走る
  2. 信号は、枝の分かれ目で2つに分かれる
  3. 片方は脊髄と脳へ。もう片方は折り返して、近くの血管へ「ゆるめて」の合図
  4. 血管が広がって、血のめぐりが増える(軸索反射)
たとえるならセンサーとスプリンクラーが一体になった火災報知器。煙を感じたら、管理室に連絡する前に、その場で水をまく。
場面 3|脊髄から脳へ

乗り換え駅を経て、脳へ

信号は、脳へ上る道と、手前で折り返す道に分かれます。

お灸分かれ目脳へ上る道脳手前で折り返す道近くの血管(ゆるんで広がる)
皮膚脊髄(乗り換え)視床(中継)大脳 路線は1本ではない

皮膚からの信号は、脊髄の入口で仕分けされ、複数の路線で脳へ向かいます。脳では、「どこを、どのくらい強く」と「いやな感じ」を、別の場所が担当します。

たとえるなら路線がいくつもある、大きな乗り換え駅。
場面 4|脳からからだへ

脳から、返事が出ていく

脳 通りやすさ自律神経 脊髄弱めも強めもする 内臓・血管場所と強さで向きが変わる おなか×強い刺激→抑える手足×弱い刺激→促す

脳は、受け取るだけではありません。脊髄に「通りやすさを変える司令」を送り、自律神経にも返事を出します。刺激する場所と強さで、返事の向きが変わります(動物の研究)。

たとえるなら司令室の指示。どの部署に、どのくらいの強さで送るかで、中身が変わる。

だから「お灸は体を整える」と、ひとことでは言えません。

全体マップ

腕にお灸をしたら、どうなる?

4つの場面を、ひとつの図にまとめました。右腕のお灸を例に、信号の旅を追ってみましょう。

内臓 脊髄 お灸のまわりの血管が広がる 大脳皮質視床(中継所)脳の司令室 腕と反対側の道 123456
橙=腕から脊髄への神経、橙の点線=まわりの血管への合図(軸索反射)、青=脳へ上り、紫の点線=脳から下り(模式図)
  1. 腕に熱。皮膚のセンサーが反応して、信号が生まれます。信号の一部は、脳へ向かわず神経の枝の分かれ目で折り返し、近くの血管に「ゆるめて」と合図。血のめぐりが増えます(軸索反射)。
  2. 腕の神経を上って、脊髄の入口へ。ここで信号が仕分けされます。
  3. 腕と反対側の道を上って、脳の中継所(視床)へ。
  4. 大脳で処理します。「どこが、どのくらい強いか」と「いやな感じ」は、別の場所が担当。
  5. 脳の司令室から、脊髄へ司令が下りてきます。ブレーキ役とアクセル役の細胞があり、信号の通りやすさを、弱めも強めもします。
  6. 自律神経を通って、内臓や血管へ返事。場所と強さで、向きが変わります。

5と6の「下り道」は、お灸で人を調べて確かめた研究が、まだ見つかっていません。

実際の場面では

どんなことで研究されている?

研究を整理した結果を、「確実性」で3つに分けました。全体では「低い」〜「非常に低い」が大半です。

非常に低い

睡眠

低い

腰痛おなか体外受精更年期がん緩和

中等度

膝の痛み逆子
← 確かめにくい確かめやすい →
「効く度合い」ではなく「結果の確実性」です

数字を見るときの、4つの目

どこの研究?大半が中国。偏りの指摘も
にせものと比べた?熱や煙は隠しにくい
「灸」は同じ?燃やす/機械で別物
何を測った?指標で結果は変わる

にせのお灸でも、症状が軽くなることがあります。それは現場で起きている変化ですが、「お灸だけの働き」とは言えません。

よくある疑問

初心者の「?」に答えます

お灸は、熱い? 痛い?

熱さや痛みを伝える神経を、まず働かせます。感じ方は種類や場所、人で変わります。熱すぎたら、がまんせずにやめてください。

やけどの心配は?

あります。報告される有害事象の中心は、やけどです。肌が弱い、持病がある、妊娠中、服薬中の方は、始める前に医師や鍼灸師に相談を。

「免疫が上がる」って本当?

いまは言い切れません。マウスで炎症の物質が抑えられた報告はありますが、人で確かめた研究は見つかっていません。

お灸の煙を浴びると、無病息災って本当?

「お灸の煙を浴びると、病気をしない」と、昔から言い伝えられています。ただ、煙の働きを確かめた試験はまだなく、科学的には仮説の段階です。

ことばのメモ

むずかしい言葉を、やさしく

TRPチャネル
温度に反応する、皮膚の小さなスイッチ。
C線維・Aδ線維
熱や痛みを運ぶ神経。C線維はおだやか、Aδ線維は強い熱から反応。
軸索反射
熱を感じた神経が、脊髄に行く前に、枝の先から血管へ合図を出す反応。
脊髄後角
脊髄にある信号の入口。仕分けの場所。
下行性調節
脳から脊髄へ、信号の通りやすさを変えるしくみ。
自律神経
内臓や血管を、無意識に調節する神経。
RCT
くじ引きでグループ分けして比べる試験。
偽灸・盲検化
にせの処置を使い、本物かどうか分からなくすること。
メタ解析
複数の研究を集めて、まとめて評価する方法。

お灸には、やけどのリスクがあります。熱すぎるときは、すぐにやめてください。肌の状態、持病、妊娠中、服薬中の方は、医師や鍼灸師に相談してから。

もっと深く知りたい方へ

専門家向けの詳細版

3部12章・58文献。報告値や研究デザイン、出典をすべて載せた、論文ベースの完全版です。

お灸の生理学(詳細版)

YOMOGI BASE

よもぎと養生の、つづきは